90 研究系及び研究施設の現状
森 田 紀 夫(助教授)
A -1)専門領域:レーザー分光学、量子エレクトロニクス
A -2)研究課題:
a) ヘリウム原子のレーザー冷却・トラップの研究 b) 液体ヘリウム中の原子・イオンのレーザー分光
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) ヘリウム原子のレーザー冷却・トラップの研究:レーザートラップ可能な最も軽い原子であるへリウム原子を対 象として,レーザー冷却・トラップの研究を行なっている。レーザー冷却により超低速となった原子同士の衝突 現象は,極めて微弱な摂動にも敏感であることや限られた低次の部分波のみによる衝突であることなどの著しい 特徴を持つため,常温の衝突とは全く異なった振る舞いが予想されて興味深い。本年は,前年に行った理論解析 をさらに進め,ヘリウム原子の極低温衝突に見られる同位体差とクリプトン原子やキセノン原子の極低温衝突に 見られる同位体差との違いの原因を明らかにすることができた。
b) 液体ヘリウム中の原子・イオンのレーザー分光:液体ヘリウム中に置かれた原子やイオンは泡や氷球を作ってそ の中に納まっていると考えられるが,それらの原子やイオンのスペクトルを測定することによって泡や氷球の状 態さらには液体ヘリウムそのものの性質を微視的に調べることが出来る。本年は,前年に観測された液体ヘリウ ム中のイッテルビウム原子イオンの蛍光スペクトルおよびレーザー誘起蛍光スペクトルの詳しい理論的解析を行 い,液体ヘリウムの泡の四重極振動による動的ヤン・テラー効果がそれらのスペクトルに大きな影響を与えてい ることを明らかにした。また,液体ヘリウム - 3中のマグネシウム原子およびカルシウム原子のスペクトルを実 験的に観測し,液体ヘリウム - 4中のそれらの原子のスペクトルとは大きな違いがあることを見出すとともに,そ の違いの原因をそれぞれの液体ヘリウムの量子統計性の違いや密度の違いなどから理論的に説明することが出来 た。
B -1) 学術論文
A. TORII, R. S. HAYANO, M. HORI, H. T. ISHIKAWA, N. MORITA, M. KUMAKURA, I. SUGAI, T. YAMAZAKI, B. KETZER, F. J. HARTMANN, T. von EGIDY, R. POHL, C. MAIERL, D. HORVATH, J. EADES and E. WIDMANN,
“Laser measurements of the density shifts of resonance lines in antiprotonic helium atoms and stringent constraint on the antiproton charge and mass,” Phys. Rev. A 59, 223-229 (1999).
Y. MORIWAKI and N. MORITA, “Ultraviolet spectra of Mg in liquid helium,” Eur. Phys. J. D 5, 53-57 (1999).
M. KUMAKURA and N. MORITA, “Laser trapping of metastable 3He atoms: Isotopic difference in cold Penning collisions,” Phys. Rev. Lett. 82, 2848-2851 (1999).
B -5) 受賞、表彰
森田紀夫 , 松尾学術賞 (1998).
研究系及び研究施設の現状 91 B -6) 学会および社会的活動
学協会役員、委員
応用物理学会量子エレクトロニクス研究会幹事(1984-1987).
C ) 研究活動の課題と展望
ヘリウム原子のレーザー冷却・トラップについては,トラップ原子数の増加に対して大きな妨げとなるペニング イオン化および会合イオン化についての重要な知見が得られたので,それを基にして新たな装置を製作してトラッ プ原子数の飛躍的な増加を図り,準安定ヘリウム原子気体におけるボーズ凝縮の実現を目指したい。液体ヘリウ ム中の原子・イオンのレーザー分光については,実験装置や測定系の改良によってさらに多くの種類の原子やイ オンに対する観測を進めて行きたい。特にイオンに関しては,超流動液体ヘリウム中のRFイオントラップを実現 し,イオン種の選択的観測を行うとともに,イオンの寿命を延ばすことを考えている。